日式 shabu shabu でも、沾醬は台湾式——「和十Shabu」と、台湾の在地小火鍋カルチャー

2026-06-23 · 台湾グルメ

台北・中山区に、2025 年 5 月にオープンした「和十Shabu(ヘー・スー・シャブ)」というお店があります。

看板も内装も完全に和風で、入口を入ると AI 軌道で運ばれてくる料理、ひとりひとりに専用の鍋——日本の方が一見して「あ、シャブシャブの店だ」と思う、その通りの店です。

でも、席に着いてメニューを見ているうちに、日本の方は必ず一つの違和感に気づきます。「あれ、沾醬(タレ)のコーナーが、日本のシャブシャブ店と全然違う」

このノートは、その違和感の正体——台湾の「在地小火鍋」カルチャー——を、和十Shabu を例に解説する話です。

台湾の「個人鍋」という独立した火鍋カテゴリー

まず、文化的な前提を一つ。

台湾の火鍋には、日本にはあまりない「個人鍋(一人一鍋)」というカテゴリーがあります。日本のシャブシャブや鍋物は、大きい鍋を囲んで複数人でシェアするのが基本だと思いますが、台湾では一人ひとりが自分専用の小さい鍋を持つスタイルが、街中の火鍋店でいちばん普通です。

「個人鍋」のお店は、一人で来ても全然平気。鍋もスープも具材も全部自分のもので、隣の席の人と何も共有しません。ランチに一人で来て、本を読みながら食べて帰る——台北のサラリーマンの定番ランチの一つです。

このカテゴリーを台湾では「在地小火鍋(在地の小さい火鍋)」と呼びます。

和十Shabu は、ブランドとしては日式 shabu shabu を名乗っていますが、店の構造は完全にこの在地小火鍋の格式です。4 人テーブルもありますが、カウンター席や 1 人用の席が充実していて、一人で来ても気まずさゼロ。これは日本のシャブシャブ店ではなかなか見られないスタイルです。

和十Shabu の看板——雞高湯ベースの Shabu Shabu 鍋底

和十Shabu の湯底は 3 種類あります(Shabu Shabu/壽喜燒/辣味噌)。日本の方にいちばん勧めやすいのは、看板の「Shabu Shabu 鍋底」。

雞高湯(鶏ガラスープ)をベースに、柴魚(鰹節)でじっくり取ったお出汁です。色は透明で、見た目はほぼ日本のお吸い物に近い。ひとくち飲むと、鶏の甘みと柴魚の香りがちゃんと立っていて、「あ、日本で飲んだことのある味だ」と日本の方は安心します。

スープに肉や野菜をくぐらせると、その素材の味が前に出る——シンプルな出汁の真骨頂を、台湾で味わえる店です。

濃い味の麻辣鍋や、王品集団の青花驕とは真逆の方向で、「素材を邪魔しない」ことを徹底した湯底。これが和十Shabu の看板です。

推薦の肉——旨味豚梅花

肉のメニューは、A5 和牛から Choice 牛小排まで一通り揃っていますが、この出汁にいちばん合うのは、豚梅花(豚肩ロース)だと私は思います。

和十Shabu が使っているのは「旨味豚梅花」というブランド豚の梅花肉。豚の首から肩にかけての部位で、赤身と脂身のバランスがちょうど真ん中——五花(バラ肉)ほど脂っこくなく、ロースほど淡白すぎない、ちょうどいい中間。

この出汁に5〜7 秒くぐらせるだけで、脂が溶け始めて、肉本体は柔らかいまま。シンプルな出汁だからこそ、肉の質が直接味に出ます。

豚梅花は日本の方が普段あまり選ばない部位かもしれませんが、台湾の火鍋では豚の中で人気 No.1 の部位です。

本題——台湾の沾醬は、自分で作る

ここからが、このノートで本当に伝えたかった話です。

日本のシャブシャブ店だと、タレは最初からテーブルに置いてあるか、お店が用意した既製のごまダレ・ポン酢を選ぶスタイルだと思います。

台湾は違います。 沾醬區(タレコーナー)に行って、自分で調合します

これは在地小火鍋カルチャーの中核で、和十Shabu のような日式の店でも、ちゃんと台湾式の沾醬區が用意されています。

台湾式沾醬の基本レシピ

台湾人が火鍋で必ず作る、定番の組み合わせを書いておきます。

  1. 沙茶醬(サーチャージャン)——基本のベース。台湾オリジナルの調味料で、干しエビ、ニンニク、エシャロット、唐辛子などを油で炒めて作る、香ばしい万能ダレ。これを小皿に大さじ 1〜2 杯取る
  2. 醬油——沙茶醬の上に少し垂らす。塩味と発酵の旨味を足す
  3. 蔥花(刻みネギ)——たっぷり乗せる
  4. 辣椒(刻み唐辛子)——辛いのが好きな人だけ。台湾では「選配」、つまりオプション扱い

これが台湾の火鍋沾醬の標準形。沙茶醬と醬油の比率を変えたり、ニンニクのおろしを足したり、人によってアレンジは無限にありますが、ベースは沙茶醬——これだけは外しません。

なぜ「自分で作る」のか

「お店が用意したらいいのに」と思う方もいると思います。でも、台湾人は自分でその場で調合することを大事にしているんです。

理由は二つあって——

一つは、鍋の種類によって沾醬を変えたいから。麻辣鍋なら沙茶醬を多めにして甘めに、清湯(さっぱり系)の鍋なら醬油多めにしてキリッと、というふうに、台湾人は鍋に合わせてその場で調整します。

もう一つは、家族や友達と一緒に来ても、それぞれ違う沾醬を作るのが普通だから。「うちのおじさんはニンニク多め」「お母さんはネギだけ」「弟は辣椒なし」——これが台湾の家庭の火鍋風景です。

和十Shabu のような日式の店に行っても、台湾人客は迷わず沾醬區へ向かいます。「日本の店だから日本式のタレで食べる」のではなくて、「火鍋を食べているのだから台湾式の沾醬を作る」——この感覚が、台湾の食文化の地層の深いところにあります。

自助吧、軌道送餐、冰淇淋

和十Shabu の他の特徴を、簡単に。

  • AI 軌道送餐システム:注文した料理が、レールに乗って席まで自動で運ばれてきます。日本のくら寿司や、回転寿司の特急レーンに近い仕組み
  • 線上點餐:席に着いて QR コードでスマホから注文。日本語インターフェース対応していたはず(行く前に確認を)
  • 自助吧の飲料:ドリンクは飲み放題
  • 甜點:Niseko(ニセコ)の北海道アイスクリームが食べ放題で締めにつきます。地味に嬉しいポイント

一人で来ても気まずさゼロ、複数人で来ても十分楽しめる——間口の広い店だと思います。

📍 店舗情報

和十Shabu 中山南京店

最寄駅・営業時間・最新メニューは公式サイトでご確認ください。

このノートで触れないこと

  • 他の湯底(壽喜燒・辣味噌)の話:このノートは Shabu Shabu と豚梅花、そして沾醬の話に絞っています。他の湯底もそれぞれ完成度が高いので、別の機会に書きます

おわりに

「日式 shabu shabu でも、沾醬は台湾式」——これが、このノートのいちばん書きたかったことです。

台湾の火鍋を食べに行くとき、沾醬區のことは知っておくと、楽しみが倍になります。お店がどんなジャンルでも、台湾人は沙茶醬と醬油と刻みネギで、自分の沾醬を作る。これが在地のリズムです。

次に台湾で火鍋を食べるとき、ぜひ沾醬區に立ち寄って、沙茶醬を大さじ 2、醬油を少々、刻みネギたっぷり——自分の沾醬を作ってみてください。在地の人と同じ食べ方をしている瞬間です。


ゆきひめ(台湾在住・グルメ手帖)