半世紀の洋館で、潮汕砂鍋粥を——故宮「十二月令図」から生まれた台中の老舗「十二月」
冬の台湾に旅行する日本の方が「あったかいものが食べたい」と言うと、ほぼ全員が思い浮かべるのは火鍋です。それは正解です。台湾の冬の定番、間違いなく火鍋です。
でも、もう一つ、台湾の在地の人が冷えた夜に向かう場所があります——砂鍋粥(サーグオジョウ)のお店です。
潮汕(チャオシャン、中国広東省東部)スタイルの土鍋でじっくり炊く生米のお粥。日本のおかゆともリゾットとも違う、米粒がほどよく形を残しながらとろっとした、台湾の冬の隠れたごちそうです。
そして、その砂鍋粥を「茶藝館の中で食べさせる」というユニークなコンセプトで台中から始まったお店があります——「十二月(シーアールユエ/12MOON)」。
名前は故宮の「十二月令図」から
店名にちょっと面白い由来があります。
「十二月」という店名は、故宮博物院に所蔵されている『十二月令図』から取られたものです。清の乾隆年間に宮廷画師が描いたとされる、十二ヶ月それぞれの季節の暮らしを描いた絵巻。四季それぞれの旬の食材を粥に取り入れる、というコンセプトの由来になっています。
店内のメニューも、ちょっと春水堂を思い出させる「茶藝館+食事」の構成。砂鍋粥が主役ですが、その横に私房菜(しぼうさい、家庭風のお惣菜・熱炒)と台湾茶のメニューが並んでいて、お粥だけでも、合菜の宴席でも、午後のお茶でも使える——間口の広いお店です。
創業の地は台中、いまは全台 11 店舗
十二月の創業の地は、台中西区。最初は台中の路地にあった一軒の老洋館でスタートして、その後 2019 年に健行路 1041 号(金典酒店の隣)に移転。半世紀以上前の洋館を改装した建物で、現在も創始店として営業しています。
そこから全台に広がって、現在は 11 店舗。台中市内に複数、台北に大安店、ほか高雄・桃園・新竹・台中の麗寶(リーパオ、複合リゾート)にも出店しています。
連鎖店なのに「私房菜(しぼうさい)」を名乗っているのが面白くて、味付けは決してチェーン店のマニュアル味じゃなく、家庭料理〜茶館料理の延長線にあります。
ちなみに 2025 年には、NVIDIA 創業者の黄仁勳(ジェンスン・ファン)氏が家族で台北大安店を訪れたことでも話題になりました。
砂鍋粥は「人数で量を選ぶ」
十二月のお粥メニューで一番特徴的なのが、1 人前から 10 人前まで、量を細かく選べるということ。
潮汕砂鍋粥は本来「みんなで囲む鍋もの」に近い扱いで、台湾人は 2〜3 人で 1 つの鍋を分け合うのが普通。十二月でも、4 人で来たら「4 人前を 1 鍋」ではなく、「2 人前を 1 鍋+もう 1 種類別のお粥を 2 人前」みたいに、複数種類を組み合わせるのが在地の頼み方です。
お米は台東関山産の「皇帝米」を使用。粒立ちが良く、しっかり煮込んでも形を残すタイプのお米です。砂鍋(小さな土鍋)に生米から炊き込むので、注文してから出てくるまで 20〜30 分かかります。茶飲と私房菜を頼んで、ゆっくり待つのが正解。
口味(味)は十数種類ありますが、私が必ず頼むのはこの二つ:
- 石斑魚粥(ハタの粥)——上品な白身魚の旨味がストレートに来る、十二月で食べるなら絶対に外せない一杯
- 牛肉粥——薄切りの牛肉が、お粥の余熱でちょうど火が通る加減。シンプルだけど深い
石斑(ハタ)は台湾の高級魚で、本来は清蒸(蒸し物)で食べるのが定番。でも砂鍋粥に入れた時の魚の旨味がじわーっとお粥に溶け出す感じは、他のお店ではなかなか味わえません。これが私の一番の推し。
牛肉粥のほうは、海鮮系が苦手な方や、シンプルな味で米と肉を楽しみたい時にちょうどいい。生姜が効いていて、寒い夜の救世主みたいな一杯です。
私房菜——私が必ず頼む 6 品
お粥だけでも満足できますが、十二月の本当の楽しみ方は「お粥+私房菜の小皿を 2〜3 品」。私が毎回頼んでしまう組み合わせを書いておきます。
1. 老皮嫩肉(ラオピーネンロウ)
十二月の私房菜の中で、絶対に外せない一品。直訳すると「老いた皮、若い肉」。
これは「皇城老媽川菜」(成都の老舗川菜店)の創業者・鄭文強(強哥)が発明したと言われている川菜の名作。雞蛋豆腐(卵豆腐)の表面だけ高温で揚げてカリッと焦がし、中はトロトロのまま残す——という、表と中で食感が真逆の不思議な一品です。
運ばれてきたら、サーバーが甘辛い醤油ダレを上からかけてくれて、テーブルで軽く混ぜる。表面に染みた醤油の香ばしさ+中のクリーミーな豆腐。日本の方が一口食べて「えっ、これ豆腐なの?」と必ず驚きます。
注意:中はかなり熱いので、最初の一口は気をつけて。
2. 客家小炒(ハッカシャオチャオ)
台湾客家料理の代表作。魷魚乾(イカの干物)、豚バラ、豆干(豆腐の干物)、芹菜(セロリ系の青菜)、ネギを、醤油ベースで強火で炒め合わせる一品。
客家料理の特徴は「鹹(しょっぱい)・香(香ばしい)・油(こってり)」の三本柱。客家小炒はその典型で、白いご飯にもお粥にも、お茶にも合う万能サイドディッシュ。
十二月のものは、豆干(豆腐の干物)の食感がしっかり残っていて、魷魚乾の旨味が全体に行き渡る仕上がり。客家料理初体験の方には、ちょうどいいファーストステップです。
3. 豆酥魚(トウスーユー)
江浙菜(中国江蘇・浙江省の料理)の名作。蒸した白身魚の上に、油で香ばしく炒めた豆酥(細かい大豆フライ)をたっぷり乗せる一品です。
魚自体は塩と生姜だけのシンプルな蒸し物。その上に、ザクザクと音のする豆酥が層になって乗っていて、一口で食べると魚のしっとり+豆酥のカリカリ+大豆の香ばしさが同時に来ます。
辛くもなく、強い味付けでもないので、お粥の合間に挟むのにちょうどいい。十二月のお粥(特に石斑魚粥)と組み合わせると、白身魚の繊細な味と豆酥の香ばしさが交互に来て、口の中で味のリセットができます。
4. 香蒜高麗菜(シャンスァンガオリーツァイ)
シンプルな炒めキャベツ、ニンニクの香りを効かせたバージョン。
台湾人の食卓では、合菜(複数人で囲む食事)には必ず一皿の青菜を入れる、というのが暗黙のルール。お粥や肉料理が続く中で、シャキシャキした青菜があると口が休まります。
十二月の香蒜高麗菜は、火加減と塩の入れ方が本当にきっちりしていて、シンプルなのに飽きない。「ニンニク炒めキャベツって普通じゃない?」と思った方は、一口食べたら違いがわかるはず——という、茶藝館らしい丁寧な仕事の一品。
5. 手作芋粿巧(ショウツオユーグオチャオ)
これがちょっと珍しい一品。客家の伝統糕点(餅菓子)で、芋(タロイモ)をすりおろした生地を蒸して、軽く焼き目を付けたもの。
形は小ぶりな三角形か小判型で、外側はもち米のような弾力、中はタロイモの繊維がほのかに残るやわらかい食感。甘くなく、しょっぱくもない、素朴な味です。
日本の方には「いきなり頼むには勇気がいる」一品かもしれませんが、これこそ「私房菜」の名にふさわしい、家庭で手作りされる懐かしい味。お粥の前菜にも、合間の口直しにも合います。
6. 砂鍋粥(再掲)
そして主役、お粥。上で書いたように、私が必ず頼むのは石斑魚粥か牛肉粥。2 人なら 2 人前を 1 鍋、4 人なら 2 種類を 2 人前ずつ、というのが私の組み合わせ方です。
サービス料はゼロ、用餐時間制限もなし
地味だけど大きいポイントを最後に。
十二月は基本的にサービス料を取りません。台北の中華レストランだと 10% の服務料が普通ですが、十二月はメニュー上の価格そのまま。これは台中スタイルの慣習で、台北以外のチェーンには時々あります。
もう一つ、用餐時間の制限がない店舗が多い(大安店は 100 分制限あり、要事前確認)。台中の創始店では、夕食後にゆっくりお茶を飲んで小腹が空いたらまた点心を頼む、という使い方も普通。急かされない時間の流れが、茶藝館の名前にふさわしいです。
📍 店舗情報
十二月 12MOONは全台 11 店舗を展開しています。観光で立ち寄りやすい主な店舗:
台中・健行店(創始店)——半世紀の洋館、最も雰囲気がある
- 住所:台中市西區健行路 1041 號(金典酒店隣)
- 電話:04-2328-9393
- 営業時間:11:00〜翌 1:00
- サービス料:不要
- 予約:inline 経由でオンライン予約可(前回のノート Google マップ予約のコツ も参考に)
台北・大安店——黄仁勳氏が家族で訪れた店舗、東京で言う表参道的立地
- 住所:台北市大安區大安路一段 19 巷 10 號
- 営業時間:11:00〜23:50、無休
- 用餐時間:100 分制限あり
- サービス料:不要
- 最寄駅:MRT 忠孝復興駅から徒歩約 5 分
他に台中市内(甘肅店・貴和店・日曜店)、台北南港 LaLaport、高雄・桃園・新竹・台中麗寶などにも分店あり。最新の店舗一覧は 公式サイト でご確認ください。
このノートで触れないこと
- 正確な価格:粥品は人数で大きく変わります(1 人前から 10 人前まで選択可)。最新の価格は店頭メニューでご確認ください
- 大安店と創始店の比較:味付けは基本的に共通ですが、創始店は半世紀洋館の雰囲気、大安店は都会的な店舗。どちらも十二月らしさはあります
おわりに
「冬は鍋」が台湾の定説ですが、「冬は粥」というもう一つの選択肢を知っておくと、台湾の冬がもう少し豊かになります。
故宮の「十二月令図」から名前を取った、半世紀の洋館の中で、潮汕の砂鍋粥と客家・川菜・江浙菜の私房菜を並べて食べる——これは台湾でしかできない組み合わせです。
次に台中・台北に来る冬には、火鍋の予定の一晩だけ、砂鍋粥に置き換えてみてください。台湾の冬の、もうひとつの過ごし方として。
ゆきひめ(台湾在住・グルメ手帖)