「三分糖、少冰」——台湾手搖飲のカスタマイズ文化、70 年続く茶葉店「天仁茗茶」で学ぶ
日本人の方が「台湾で何のドリンクを飲んだ?」と聞かれたとき、たいてい五十嵐(KOI Thé)、迷客夏(Milkshop)、可不可、麻古茶坊、CoCo 都可——あたりの名前が出てきます。
どれも美味しいです。でも、台湾の手搖飲(しゅーやおいん/手作りドリンク)には、もう一つの古い層があります。
「天仁茗茶(てんじんめいちゃ)」——1953 年、高雄の岡山という小さい街にあった「銘峰茶行」という茶葉店から始まったブランドです。70 年以上経って、いまは台湾でいちばん有名な茶葉ブランドになっています。
その天仁茗茶が、街中に持っている手搖飲の外帯店——それが「喫茶趣 ToGo(チーチャーチュー・トゥーゴー)」。デパ地下や駅構内によくある、緑と金色の看板の小さい店です。
このノートは、その喫茶趣 ToGo を在地の人の流儀で頼む方法を書きます。
天仁茗茶とは——「茶葉店が作る」手搖飲
天仁茗茶のいちばん特殊なところは、「茶葉ブランドが、手搖飲もやっている」という構造です。
普通の手搖飲チェーン店は、ドリンク事業からスタートしています。茶葉は仕入れて、味付けと組み合わせで勝負する。
天仁は逆で、もともと茶葉を売る店。台湾各地に「天仁茗茶」の名前の茶葉専門店があって、お土産用の烏龍茶や鉄観音や凍頂茶を買うところとして、地元の人にもよく知られています。
その本体ブランドが、現代の手搖飲文化に合わせて作った外帯ライン——それが喫茶趣 ToGo。だから、ドリンクに使われている茶葉は、自社で扱っている茶葉そのもの。これが他のチェーン店との根本的な違いです。
看板の「913 茶王」
喫茶趣 ToGo のメニューで、まず注目してほしいのが「913 茶王(チウイーサン・チャーワン)」。
「913」という数字は、天仁の中の配合番号のようなもの——細かい由来は私もよく分かっていませんが、要するに「天仁の代表作」というブランドナンバーだと思ってください。
中身は、台湾高山烏龍茶+アメリカ西洋人参(花旗蔘)。烏龍茶のすっきりした後味に、西洋人参のほんのり甘い後味が重なる、天仁オリジナルの調合茶です。
烏龍茶は日本でもよく飲まれていますが、西洋人参を合わせるという発想は中華圏ならでは。漢方の世界では西洋人参は「気を補う」素材として知られていて、長時間の仕事や暑い日にすっと体に入ってくる感覚があります。
在地の頼み方——「無糖、正常冰」
ここが本題の前哨戦です。913 茶王は無糖(無加糖)で頼んでください。
理由は単純——茶葉そのものの後味(回甘)が、この一杯のすべてだからです。砂糖を入れると、その回甘が消えます。喫茶趣 ToGo のスタッフも、913 茶王を「半糖」で頼まれると一瞬「うっ」となる、という話を聞いたことがあります。
氷は「正常冰(普通の氷の量)」で。冷たくしすぎると香りが立たないので、「少冰」「去冰」にする必要はないです。
「913 茶王、無糖、正常冰」——これが、台湾人の頼み方の標準です。
もう一つの看板「珍珠奶茶」
天仁の珍珠奶茶(タピオカミルクティー)は、メニューに二種類あります。
- 珍珠奶茶(クリーム版)
- 珍珠鮮奶茶(フレッシュミルク版)
日本人の方は「鮮奶のほうが美味しいでしょ?」と思うかもしれません。確かに、フレッシュミルク版もまろやかで美味しい。
でも、台湾の伝統的なタピオカミルクティーは、奶精(クリーム=粉ミルクや液体クリーマー)版です。フレッシュミルクが普及するずっと前から、台湾人はこの奶精版のタピオカミルクティーを飲んできました。
奶精版の特徴:
- 甘くてしっかりした口当たり
- お茶の渋みと、クリームの甘さがはっきり分かれる
- 冷やすと、独特の「層」ができる
鮮奶版の特徴:
- まろやかで自然な乳の風味
- お茶とミルクが融合してまとまる
- やや上品
どちらが正解、というのはなくて——台湾の懐かしい味は奶精版、というのが正直なところです。日本のクリープを溶かしたミルクティーに、似たような甘さの記憶を持っている方なら、奶精版のほうが「あ、これ知ってる」と感じるはずです。
在地の頼み方——「三分糖、少冰」
ここが、このノートでいちばん書きたかった部分です。
台湾の手搖飲では、注文時に甘さと氷を細かく指定するのが当たり前。日本のドトールやスタバには無い文化です。
甘さは——
- 全糖(フル)/少糖(85%)/半糖(50%)/三分糖(30%)/微糖(20%)/無糖(0%)
氷は——
- 正常冰(普通)/少冰(少なめ)/微冰(ごく少なめ)/去冰(なし)/熱(ホット)
それぞれの組み合わせを、口頭またはタッチパネルで指定します。
そして、珍珠奶茶(奶精版)の在地の正解は「三分糖、少冰」。
理由:
- 全糖は本当に甘い。台湾人でも全糖で頼む人は少数派
- 三分糖にすると、奶精のクリーミーさと茶葉の渋みのバランスがちょうど立つ
- 冷たすぎると味がぼけるので「少冰」で
「珍珠奶茶、三分糖、少冰」——これが、在地の人の標準的な頼み方です。
まとめ:今日のオーダー
ここまでをまとめると——
- 珍珠奶茶(奶精版):三分糖、少冰
- 913 茶王:無糖、正常冰
この二杯を、喫茶趣 ToGo で頼めるようになれば、台湾の手搖飲カルチャーの中心にあるものは大体わかります。
日本に持ち帰れる経験として、これはなかなか価値があると思います。
📍 店舗情報
天仁茗茶/喫茶趣 ToGoは、台湾全土に展開しています。
- 百貨店地下街:台北なら新光三越、SOGO、遠百などの地下フードフロアによくあります
- MRT 駅近く:忠孝、東門、中山、信義區など主要 MRT 駅周辺
- 空港:桃園空港の出発ロビーにも店舗あり——帰国前のラスト一杯にちょうどいい
最新の店舗一覧は天仁茗茶公式サイトで。
このノートで触れないこと
- 他のチェーン店との比較:五十嵐や麻古茶坊もそれぞれ独自の魅力があります。このノートは天仁の話に絞っています
- 珍珠(タピオカ)の食感の話:天仁の珍珠は普通の黒糖タピオカで、特別に話題にすることはありません。シンプルで安定しています
- 913 という数字の正確な由来:諸説あるようですが、私は確証を持っていないので踏み込みません
おわりに
台湾の手搖飲には、「新しい層」と「古い層」があります。
SNS で人気の新しいチェーン店は、もちろん試す価値があります。でも、それと並行して、1953 年から続いている茶葉ブランドが作る手搖飲を、一度は飲んでみてほしい。
「珍珠奶茶、三分糖、少冰」と注文できるようになれば、あなたはもう観光客ではなく、半分くらい台湾人です。
ゆきひめ(台湾在住・グルメ手帖)