鼎泰豐の喧騒から一本入った路地で——1990 年からの扁食専門店「奇福扁食」

2026-06-24 · 庶民小食

永康街——台北で日本人観光客がいちばん集まるエリアの一つです。MRT 東門駅で降りて地上に出ると、目の前にあるのは鼎泰豐の本店、その向こうには有名な芒果かき氷の店が並んでいて、いつも行列が絶えません。

もちろん、それも楽しい台北の風景です。でも、永康街の楽しみ方はそれだけじゃない——というのが、このノートで言いたいことです。観光のメインストリートから一本だけ路地に入ったところに、1990 年から地元の人だけがコツコツ通っている、扁食(へんしょく)の専門店があります。

店の名前は「奇福扁食(チーフー・ピェンスー)」。日本のガイドブックにはほぼ載っていない、でも台湾の在地の人にとっては「あ、あの店ね」と通じる、永康街エリアの小さな名店です。

そもそも「扁食」とは

日本の方にはちょっと馴染みのない単語かもしれないので、最初に整理しておきます。

台湾には、ワンタン系の料理に三つの呼び方があります:

  • 餛飩(フントゥン)——いちばん一般的な呼び方。中国大陸の北方系
  • 抄手(チャオショウ)——四川系の呼び方。「紅油抄手」など、辛い版で有名
  • 扁食(ピェンスー)——福建・台湾系の呼び方。「扁(へん/ぺったんこ)」の字が示すとおり、皮が薄めで、形も比較的小ぶり・平らに包むのが特徴

つまり、扁食 = 台湾と福建で愛されている、薄皮タイプのワンタンだと思ってもらえれば大丈夫です。日本のラーメン屋さんで出てくるワンタンよりも、皮がツルッと薄くて、餡と皮のバランスで「ちゅるっ」と入ってくる感じが近いです。

奇福扁食について

奇福扁食の親会社は「奇福食品有限公司」。創業は1990 年(民国 79 年)、もう 30 年以上続いている老舗の扁食専門店です。

創業時から「純手工」——つまり、扁食を機械ではなく一つ一つ手で包む——を看板にしていて、これは今も変わっていません。冷凍宅配や物販もやっていますが、永康街エリアの店舗(信義門市)では、出来立てを店内でゆっくり食べられます。

豚肉は台湾産。鮮蝦(むきえび)の扁食は、一粒一粒の背わたを手で取り除いてから包む——この手間のかけ方が、奇福が 30 年生き残ってきた理由だと思います。

店内の雰囲気——日本の方が安心できる

奇福扁食を日本の方に勧める大きな理由の一つは、店内が本当に清潔で整っていることです。

台湾の庶民小食の店は、味は最高でも、店内が古かったり、テーブルがちょっと油っぽかったり、初めての日本の方には敷居が高い場合があります。奇福はその点、明るい店内、きれいなテーブル、感じのいい接客で、扁食初体験の日本の方でも気負わずに入れます。

「夜市の屋台はちょっと不安……でも、ローカルな扁食は食べてみたい」——そんな方に、私は迷わず奇福を勧めます。

私のおすすめ三品

ここからは私が個人的に通って、毎回頼んでいる組み合わせを書きます。

1. 鮮蝦扁食乾麵

奇福で私がいちばん好きなのが、これ。鮮蝦扁食(むきえびワンタン)を乾麵(汁なし麺)に乗せた一品です。

扁食の中に、けっこう大きめの蝦が一尾まるごと入っているのが奇福の特徴。皮を噛むと、ぷりっとした蝦の食感と、淡白だけど旨味のある豚肉の餡が一緒に口に広がります。

乾麵——日本で言うと「汁なし担々麺」のような麺——は、台湾の伝統的な肉燥(豚そぼろ)ダレを絡めたシンプルな仕立て。スープなしで麺の小麦の香りと、ダレの旨味、扁食の旨味の三段重ねで楽しむ食べ方です。

汁ありの「鮮蝦扁食湯」もあるのですが、乾麵のほうが扁食と麺の輪郭がはっきり出るので、私は乾麵推しです。

2. 肉燥乾麵

もう一品、必ず頼むのが肉燥乾麵(ロウザオ・ガンミェン)台湾人の魂とも言える、いちばんシンプルな汁なし麺です。

麺の上に肉燥(豚そぼろを醤油と五香粉でじっくり煮込んだもの)を乗せて、よく混ぜて食べる——それだけ。でも、これがしみじみと美味しい。台湾人が「ホッとする味」と言う典型がこれです。

奇福の肉燥は、親会社が独立商品として「精緻肉燥」を販売しているくらいの自慢の品。脂と赤身のバランスがよく、醤油の香りに角がない、洗練された肉燥です。

「鮮蝦扁食乾麵 + 肉燥乾麵」を二人で分けて食べると、奇福の主力を両方味わえる組み合わせになります。

3. 小菜(シャオツァイ)

三つ目は小菜——日本でいう「小鉢」「副菜」です。

台湾の麺類専門店では、レジ近くやガラスケースの中に、すでに作り置きされた小菜がずらっと並んでいることが多くて、好きなものをトレイに取って会計するスタイル。奇福も同じです。

定番は豆干(押し豆腐)、海帯(昆布)、滷蛋(煮卵)、青菜の冷菜、ピリ辛の千切り野菜あたり。どれも一皿が手のひらサイズで、価格も手ごろなので、二〜三品取って、麺と一緒に食べるのが台湾流です。

とくに豆干と海帯は、扁食と乾麵の間に挟む「箸休め」としてちょうどよくて、口の中がリセットされて、また麺に戻れる——この食べ方のリズムを、ぜひ試してみてほしいです。

頼み方のコツ

奇福では、入口で席に着いて、メニューを見ながら口頭で注文する形式(店舗によっては紙のオーダーシートに記入)。日本人の方が頼む場合のコツを少しだけ:

  • 「鮮蝦扁食乾麵 一つ、肉燥乾麵 一つ」と紙に書いて見せれば確実です。発音に自信がなくても問題なし
  • 小菜はガラスケースを指差して「これと、これ」で OK。台湾の麺店ではこれが標準スタイル
  • 会計は食事の前か後かは店舗によります。スタッフが「先付」と言ったら先払いです

あと、扁食は熱々で出てきます。鼎泰豐の小籠包と同じく、最初の一口は慎重に。

📍 店舗情報

このノートで紹介した永康街エリアの店舗は信義門市です。

奇福扁食 信義門市

  • 住所:10061 台北市信義路二段 243 巷 2 號
  • 最寄駅:MRT 東門駅から徒歩約 3〜5 分(永康街エリア)
  • 電話:02-2396-0233 / 02-2322-2337

営業時間は店舗で確認してください。永康街観光のついでに立ち寄りやすい立地で、鼎泰豐本店から歩いてすぐ

他に台北市内では寧波門市(台北市寧波西街 17 號、MRT 中正紀念堂駅エリア)もあります。物販と冷凍宅配は公式サイトから。

このノートで触れないこと

  • 鼎泰豐との比較——カテゴリが違います。鼎泰豐は小籠包、奇福は扁食。両方食べる前提で永康街の予定を組んでください
  • 「台湾でいちばんの扁食」論——台湾各地にそれぞれの名店があります。奇福は「永康街エリアで気軽に、清潔な店内で扁食を食べたい時のベスト」、という位置づけです
  • 値段の細かい話——一杯あたり数百円程度の庶民価格ですが、最新の価格は店頭メニューでご確認ください

おわりに

永康街は、観光の動線が完全に固まっているエリアです。鼎泰豐に並んで、芒果かき氷を食べて、雑貨屋を覗いて——それで一日終わる、というパターンの方が多いと思います。

でも、その動線から路地一本入るだけで、地元の人が 30 年通っている小さな扁食屋がある——これが永康街のもう一つの顔です。

鼎泰豐の行列に並ぶ前に、あるいは並んで疲れた後に、ちょっと寄り道してみてください。一杯の鮮蝦扁食乾麵で、永康街の見え方が少しだけ変わるはずです。


ゆきひめ(台湾在住・グルメ手帖)

関連記事:鼎泰豐より 23 年も先輩——日本人が見落とす、台北の上海菜の本命「高記」