豚足はご褒美料理じゃない——松江南京・富霸王豬腳は台北サラリーマンのお弁当です
平日の朝、11 時前。松江南京駅 7 番出口を出て、長春路のマクドナルドの裏の路地に入ると、黒い看板の小さな店の前に行列ができています。
並んでいるのは、観光客ではありません。白いシャツに社員証を首から下げた、近所のオフィスから出てきたサラリーマンたちです。手には番号札。11 時の開店を、路地で立って待っている。
この光景こそが、富霸王豬腳という店の正体を、一番正直に説明していると思います。
豚足は「ご褒美料理」じゃありません
日本の方が「豚足」と聞いて思い浮かべるのは、たぶん沖縄のテビチ煮込みか、コラーゲンたっぷりの「女子のためのご褒美料理」あたりではないでしょうか。あるいは、ちょっと特別な日に食べる、こってり系の大餐。
でも台湾の——少なくとも台北の——豚足は、そういう位置づけではありません。平日のランチで、サラリーマンが 30 分で食べて職場に戻る、お弁当感覚の料理です。富霸王はその代表格。
証拠は、営業時間に書いてあります。
火曜〜土曜 11:00〜19:30 / 日曜・月曜 定休
週末がまるごと休みなんです。観光客の店なら、土日こそ開けるはずです。でも富霸王は閉めている。なぜか。お客さんがオフィス街のサラリーマンだから、サラリーマンが休む日に店も休む。それだけのことです。
ここから話が始まります。
号碼牌は「10 時に抽く」
富霸王のオペレーションは、観光ガイドが説明してくれない部分に、地元のリズムが詰まっています。
入口は内用(イートイン)と外帯(テイクアウト)で分かれていて、まず番号札(号碼牌)を引きます。引いてから順番が来るまで、平日昼でだいたい 30 分〜1 時間。座席数は多くないので、2 人で来ると、ほぼ確実に他のお客さんと相席(併桌)になります。
ここで在住者の裏技を一つ。10 時頃に店の前を通って番号札だけ先に引いておき、11 時に戻って受け取る——これがこのあたりで働く人たちが普通にやっている動き方です。開店前から番号は配り始めるので、開店ぴったりに着いた人より早く食べ終われます。
それから、もう一つ大事なこと。現金のみです。クレジットカードも、LINE Pay も、悠遊カードも、使えません。台北の老舗の小吃店ではよくあることですが、財布の中の現金は確認しておいてください。
豚足は「部位を選ぶ」料理
メニューを見て驚くのは、豚足が3 つの部位に分かれていることです。
- 腿扣(トゥエイコウ):膝より上の太ももの部分。皮と脂と肉のバランスが一番よく、ボリュームもある。人気 No.1。お昼の 12 時前には売り切れることも多い
- 腿節(トゥエイジエ):膝の関節部分。骨と筋とゼラチン質が一番濃い。歯ごたえとプルプル感を楽しむ部位
- 腿蹄(トゥエイティー):足先に近い、いわゆる「豚足らしい豚足」。日本の方がイメージする豚足はたぶんここ
メニュー表には絵で部位の位置まで描いてあって、店側も「同じ豚足でも違うものですよ」と丁寧に伝えてくれます。
私が頼むときの組み合わせは、こうです:
- 腿扣 主役。早めに行く日はこれを狙います
- 魯肉飯(ルーローハン) 白いご飯じゃなく、これ。豚足の甘辛い醤油ダレと、魯肉飯の脂がうまく続きます
- 筍絲(スンスー) メンマみたいな見た目の、甘酸っぱい筍の煮物。豚足の脂をリセットしてくれる
- 滷油豆腐(ルーヨウドウフ) 厚揚げの煮物。これも豚足のタレが染みていて、ご飯がもう一杯欲しくなります
「主菜・主食・副菜・もう一品」の構成。ご飯ものを 2 つ頼んでも全然多くないのが、この店の食べ方です。台湾のランチの「ガッツリ」のサイズ感は、日本のランチより一段大きいと思っておいてください。
味は「軽い」とは言いません
富霸王の豚足は、見た目が真っ黒に近い、深い焦げ茶色をしています。
正直に言うと、ほんのり甘さがあって、脂もそれなりにしっかりしています。台南あたりの「砂糖がガツンと前に出る甘さ」とは違う、醤油ダレに溶け込んだ深みのある甘さ、という感じ。日本の方が想像する「あっさり系」ではなく、ご飯と一緒に食べることを完全に前提とした、油と甘辛さで攻めてくる味だと思っておいてください。
だからこそ、筍絲(甘酸っぱい筍の煮物)が効きます。脂と甘さの連打のあいだに、酸味でリセットを入れる。これが台湾の人がこの店で自然にやっている食べ方です。
📍 店舗情報
このノートで紹介した料理は、すべて富霸王豬腳で頼める内容です。
富霸王豬腳
- 住所:台北市中山区南京東路二段 115 巷 20 号
- 最寄駅:MRT 松江南京駅 7 番出口から徒歩 5 分(長春路のマクドナルドの裏の路地)
- 営業時間:火〜土 11:00〜19:30(日・月 定休)
- 電話:02-2507-1918
- 支払い:現金のみ(カード・電子マネー不可)
- 予約:不可(番号札方式、現場で引く)
近所で働く人は朝 10 時頃に番号札を引いて、11 時の開店に合わせて戻ってきます。観光で来る場合も、この方法は使えます。
このノートで触れないこと
- 価格:本記事では金額を書きません。台湾の物価は変動しますし、お店のメニュー改定もあります。正確な値段は現場のメニュー表でご確認ください
- 沖縄テビチとの比較:別の料理として食べた方が、両方それぞれおいしく感じられると思います
- 夜の様子:私自身は昼か外帯(テイクアウト)でしか行ったことがないので、夜の状況はわかりません
結論
「日曜が休みの豚足屋」——この一行が、富霸王豬腳のすべてです。
ガイドブックの「台湾の伝統料理」のページに載っているような、夜にじっくり囲む大餐ではなく、平日の昼に白いシャツの人たちが番号札を握って並ぶ、台北の働く街の風景の一部。そういう場所で、そういう食べ方をする豚足です。
お腹を空かせて、現金を握って、できれば 11 時前に。これが正解です。
お店で迷ったら、旅行前のメニュー相談を受け付けています →
ゆきひめ(台湾在住・グルメ手帖)