色は紅燒、味は別物——林東芳牛肉麺、台北の深夜の一杯
八徳路二段、夜中の 12 時を過ぎても、明かりの灯っている食堂があります。林東芳牛肉麺——朝 11 時から深夜 3 時まで開いている、台北の牛肉麺の代表的な一軒です。
お昼の混雑時間を外して夜中に来る人、仕事終わりに寄る人、夜ご飯の後にもう一杯欲しくなって立ち寄る人。深夜営業の店、というだけでなく、深夜に来る人がちゃんといる店です。
ただ、このお店を紹介したい理由は、深夜まで開いているからではありません。紅燒派の中で、ちょっと変わった作り方をしている一杯だからです。
紅燒なのに、豆板醤を使わない
前回のノートで書いたように、紅燒派の湯は基本的に醤油と豆板醤、唐辛子、香辛料を組み合わせて作ります。色も味も重い、というのが台湾人が共有している「紅燒派」のイメージです。
ところが、林東芳の紅燒は、豆板醤を使いません。
牛大骨と牛雜、野菜を時間をかけて煮込んで取った湯に、醤油と香辛料で色と香りを整える——典型的な「重さ」の作り方を選ばない一杯です。色だけ見たら間違いなく紅燒、でも口に入れた時の重さは、紅燒派の中で最も軽い部類に入ります。
スープを一口飲むと、辛味はほとんどなく、香辛料の主張も控えめ。「紅燒なのに、こんなに澄んでいるのか」というのが、初めて来た時の私の印象でした。色は紅燒、でも味は別物。林東芳の一杯を一言で説明するなら、こうなります。
私が頼むのは「半筋半肉」ではなく「牛肉麺」
林東芳の牛肉は、牛腱(牛の脛肉)を使っています。台湾の牛肉麺はお店ごとに肉の部位が違うのですが、林東芳のものは、噛んだ時に筋っぽさをほとんど感じません。柔らかく、口に入れた瞬間にほどける感じ。「歯ごたえ」より「とろけ感」に振り切ったお肉です。
普通、牛肉麺の有名店では「半筋半肉」(牛肉と牛筋の両方が入った一杯)が定番として紹介されることが多いです。林東芳でも半筋半肉は人気メニューで、これも美味しいです。
でも、私が頼むのは「牛肉麺」——純粋な牛肉だけのほう。
理由は、林東芳の牛肉そのものが、一般的な牛肉麺の牛肉よりずっと出来がいいからです。筋を足さなくても、牛肉だけで十分に満足できる一杯になっている。筋の食感が好きな方は半筋半肉でいいと思いますが、初めて来るなら、まずは「牛肉麺」を試してほしい。これがこの店の素直な味だと思っています。
サイズの注意——「中碗」は思ったより小さめ
一つ実用的な注意があります。
林東芳は碗のサイズが「中碗」と「大碗」に分かれているのですが、中碗の量は、他のお店の中碗より少し小さめです。
私(女性)には中碗でちょうどいいくらいですが、しっかり食べたい方、特に男性は、最初から大碗を頼むことをおすすめします。「中碗で足りるかな?」と迷ったら、大碗のほうが後悔しません。
在地人の食べ方が二つあります
林東芳には、台湾人の食べ方として知っておくと得する二つのポイントがあります。
一つ目——滷豆乾は冷蔵庫から自分で取る
席に着くと、お店の中に冷蔵庫が置いてあります。その中に、滷豆乾(醤油ベースで煮込んだ豆腐の押し)や、その他の小皿料理が並んでいます。これは自分で取りに行くスタイル。注文するのではなく、食べたい分を冷蔵庫から取って、後で会計に追加されます。
日本の食堂ではあまり見ないシステムですが、台湾の一部の食堂ではこういう「自助」スタイルが普通にあります。最初は戸惑うかもしれませんが、台湾人は誰もが普通にやっている動作なので、堂々と取ってください。
林東芳の滷豆乾は、麺と一緒に食べる小菜としてとても合います。冷たい状態のまま食べるのが普通の食べ方です。
二つ目——テーブルの牛油辣椒は、少しだけ試す
テーブルの上に、牛油辣椒(牛の脂で作った辣油のようなもの)が置いてあります。これが林東芳の名物の一つ。スプーンで一さじスープに入れると、湯の表情が一気に変わります。
ただし、これはかなり辛いです。日本の食堂でよく見る食べるラー油より、ずっとパンチがあります。台湾人でも辛さに弱い人は躊躇するくらいの辣度なので、初めての方はまずティースプーンの先ほどの量を試して、自分の許容範囲を見極めてから本格的に入れることをおすすめします。
一気にたっぷり入れてしまって、せっかくの澄んだスープのバランスが崩れた——というのは、慣れていない人にはありがちな失敗です。少しずつ、が鉄則です。
このノートで触れないこと
- お店の歴史的背景や創業者の経緯:諸説あり、私には正確に書ける情報がないので、今回は触れません
- 価格:時期によって変動します。最新の値段はお店の現場でご確認ください
📍 店舗情報
このノートで紹介した料理は、すべて林東芳牛肉麺で頼める内容です。
林東芳牛肉麺
- 住所:台北市中山区八徳路二段 322 号
- 最寄駅:MRT 忠孝復興駅 / 南京復興駅から徒歩 10〜15 分
- 営業時間:11:00〜03:00(毎日)
- 電話:02-2752-2556
- 予約:不可(席につき次第)
- 支払い:現金のみ
おわりに
紅燒派の中でも、林東芳は独自の路線を歩いている一杯です。色は紅燒、味は別物——この対比そのものが、このお店の魅力です。
深夜まで開いているので、ホテルに戻る前の最後の一食、というのもいいかもしれません。
ゆきひめ(台湾在住・グルメ手帖)
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