紅燒か清燉か、迷わなくていい一軒——三商巧福、台湾最大の牛肉麺チェーン

2026-06-24 · 台湾グルメ

台北を歩いていて、ふと「あ、牛肉麺食べたい」と思う瞬間があります。

でも、林東芳まで電車を乗り継ぐ気合いはないし、百貨店のフードコートに入って食事という気分でもない。そんな時——道沿いを少し歩けば必ず見つかる、オレンジの看板の連鎖店があります。

三商巧福(さんしょう・チャオフー)。1983 年創業、台湾最大の牛肉麺連鎖です。

このシリーズで紹介する三軒目

このノートは、台北の牛肉麺シリーズの三軒目です。

これまで紹介してきた二軒は、どちらも目的地として「行く」お店でした。林東芳は深夜に夜風を切って向かう一杯、總裁牛肉麺は百貨店のフードコートで買い物のついでに立ち寄る一杯。それぞれ違う場面の主役です。

三商巧福は、その下にもう一段ある「街角の連鎖」のレイヤー。気合いも目的地も要らない、観光中に「何か食べたい、座って休みたい」と思った時に、視界の端に必ずオレンジの看板が入っている——そういう存在です。

1983 年、台湾最大の牛肉麺連鎖

三商巧福の母体は三商グループ。1964 年に台湾大学商学部の卒業生 3 人が立ち上げた商社が始まりで、ここから百貨店、保険、IT、流通など多岐に展開した、台湾の老舗総合グループです。

その中で牛肉麺の業態がスタートしたのが 1983 年。ファストフード型の食堂として出発し、現在は台湾国内で最大規模の牛肉麺連鎖に成長しています。台北・新北・桃園・新竹・台中・台南・高雄、各主要都市の駅前商店街、市場、百貨店内、ロードサイドまで——どこを歩いてもだいたい見つかります。

余談ですが、東京・赤坂にも日本 1 号店(2014 年開店)があります。三商グループの日本法人「日本三商フードサービス」が直営で経営している店舗です。これから書く料理は、いまの東京の皆さんなら台湾に来る前に一度試してみることもできる——というのは、ちょっと嬉しい話だと思います。

紅燒か清燉か、迷わなくていい

このシリーズの最初のノートで、台湾の牛肉麺は「紅燒(こい一杯)」と「清燉(すっきり一杯)」の二派閥に分かれている、という話を書きました。

林東芳も總裁も紅燒派一本のお店なので、その日の気分に紅燒が合わない時は、別の選択肢が必要でした。

三商巧福は、その点が違います。同じ店内に紅燒系と清燉系、両方のメニューが並んでいる。連鎖店だからこそできる「網羅性」、と言ってもいいかもしれません。

「今日は紅燒の気分だけど、相方は清燉が好き」「夏で重いのは無理だけど、相方はガッツリ食べたい」——そんな時、三商巧福が一番揉めない選択肢です。

私のおすすめ三品

三商巧福のメニューは結構な数あります。その中から、私が必ず頼む三品を書きます。

1. 原汁牛肉麵套餐——看板のセット

まず一品目、これが看板。原汁牛肉麺(ユエンジー・ニュウロウミェン)の套餐(セット)です。

「原汁」とは「原(もと)の汁」、つまり余計な味付けを乗せていない、ストレートな牛肉麺のこと。湯は牛骨ベースで、香辛料の主張は控えめ。三商巧福が「美味しいは食の大前提」という創業以来の経営理念を体現している一杯です。

麺は「金 Q 麺」と呼ばれる、店オリジナルの麺。「厚」「中」「薄」の三段階の圧延で作られていて、弾力としっかりした歯ごたえがあります。連鎖店の麺としては相当しっかりした作り。

牛肉は柔らかく、シンプルに「牛肉と麺と湯」の三要素で成立する一杯。派手な驚きはありませんが、食べ終わった時に「ちゃんと食べた」と思える。これが看板メニューに据えられている理由だと思います。

2. 番茄肉醬乾拌麵套餐——個人的お気に入り

二品目、これが私の隠れた本命。番茄肉醬乾拌麺(ファンチエ・ロウジャン・ガンバンミェン)の套餐です。

「乾拌麺」は汁なし混ぜ麺。熟成トマトと豚挽き肉を炒めて細火で煮込んだ、ちょっとイタリアン寄りのソースが、三商巧福の金 Q 麺に絡んでくる一品です。

正直に言うと、ここで使われている肉は豚肉です——牛肉麺のお店なのに豚?と思うかもしれませんが、これは台湾の汁なし麺の伝統的な作り方で、肉醬(ロウジャン)と言えば台湾では基本的に豚挽き肉のことを指します。

口に入れた時の印象は「やさしい」。トマトの酸味と豚肉の甘み、麺の小麦の香り、ぜんぶが角を立てずに混ざっている。辛さもなく、香辛料の主張もなく、食欲がない日でも食べられる一杯として、私は本当によく頼みます。

これも套餐にできます。お値段は牛肉麺類より控えめなので、組み合わせの自由度が高いのも嬉しいところ。

3. 叻沙牛肉麵——夏に効く一杯

三品目、ちょっと変わり種を。叻沙牛肉麺(ラクサー・ニュウロウミェン)です。

「叻沙(ラクサ)」は東南アジア——マレーシア・シンガポール発祥の、ココナッツミルクベースのスパイシーなスープ麺。三商巧福は南洋の香辛料と新鮮なココナッツミルクを使って、本場に近い味を再現しています。

牛肉麺としてはかなり異色です。微酸味、微辛味、ココナッツの甘いまろやかさが同居している一杯で、台湾の伝統的な牛肉麺の枠から完全に外れています。

でも、夏の暑い台湾には、これがハマるんです。スパイスで汗をかいて、ココナッツミルクで体温を下げて、酸味で口の中をリセットする——東南アジアの料理が高温多湿の地域で発達した理由が、一杯で理解できる感じがあります。

常駐メニューなので、いつ来ても頼めます。台湾の夏(5 月〜10 月)、外を歩いて汗だくになった日にぜひ。

套餐の組み立て方

三商巧福では、各メニューを套餐(セット)に拡張できます。組み合わせはシンプル:

  • 主食(牛肉麺か乾拌麺)
  • 副菜を一品——お店の小菜メニューから一つ選びます。種類は意外と多くて、ざっくり青菜系(現燙青菜などの野菜系)と滷味系(醤油ベースの煮込み、滷豆乾・滷蛋・滷排骨など)の二つのグループに分かれています
  • 飲み物一杯

副菜の選び方の私のコツは、メイン料理の重さでグループを切り替えること。

原汁や叻沙のような「メインの主張が強い一杯」には、青菜系の小菜を合わせて口の中をリセットする。番茄肉醬のような「やさしい乾拌麺」には、滷味系で塩気と旨味を足してメリハリをつける。グループの中での細かい選択は、その日の気分でどうぞ。

飲み物は中杯の炭酸飲料が標準。台湾の食堂では、食事中に冷たい飲み物を一緒に飲むのが普通の習慣です(日本のラーメン屋でお冷を飲むのと同じ感覚)。

頼み方のコツ

三商巧福はカウンターで注文するファストフードスタイル。頼み方のコツを少しだけ:

  • メニューは紙の写真メニューがあるので、指差し注文で問題なし。日本語メニューはありませんが、写真があるので困りません
  • 「套餐(タオツァン)」と一言添えれば、セットを選んでいることが伝わります。「○○套餐 一個」が基本
  • 会計は注文時に先払い。注文番号の札を渡されて、席で待つスタイル
  • 水とお茶はセルフ。店内のディスペンサーから自由に取れます

このノートで触れないこと

  • 桃園空港・松山空港に分店はありません——「到着してすぐ食べたい」「帰国前の最後の一食」というニーズには、残念ながら向きません。空港から市街に出てから探してください
  • 店舗ごとの当たり外れ——連鎖店としての品質管理は安定していますが、混雑時間や立地によって少し体感は変わります。基本的にはどの店舗でも大きく外れません
  • 価格——時期によって変動します。最新の価格は店頭の券売機・メニューでご確認ください

📍 店舗情報

三商巧福は台湾全土に展開しているので、観光ルートに合わせて立ち寄りやすい店舗を選んでください。

探し方の目安:

  • 台北市内では、主要 MRT 駅の周辺に複数の店舗があります(駅出口の地上階、または駅近のロードサイド)
  • 百貨店内の美食街・フードコートにも入っている店舗があります
  • 桃園・新竹・台中・台南・高雄、いずれも主要都市にあり

全店舗の住所・営業時間検索は、公式サイトの店舗検索から。営業時間はだいたい11:00〜21:00 前後、ロードサイド型は早朝〜深夜のロングタイム営業の店舗もあります。

日本の方への補足:東京・赤坂にも 1 号店があります(東京都港区赤坂 3-12-11、営業時間 11:00〜23:00、年中無休)。「台湾に行く前にちょっと試してみたい」という方は、こちらで予習もできます。

おわりに

「牛肉麺シリーズ」の三軒目に三商巧福を入れたのは、「目的地として行く一軒」だけでは台湾の牛肉麺カルチャーは語りきれないと思ったからです。

林東芳のような名店、總裁のような上品な選択肢、それと並んで、街角でふと出会う安心の一杯——この三層構造があってはじめて、台北の牛肉麺の景色になります。

観光のスケジュールに無理に組み込まなくていい。ただ、台北で歩いていてオレンジの看板を見かけた時、「あ、これがあの店か」と思ってもらえれば。それで十分です。


ゆきひめ(台湾在住・グルメ手帖)

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